文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究:多彩なフレーバーで探る新しいハドロン存在形態の包括的研究

計画研究B01・平成22年度の研究の進捗と成果


(図1)J-PARCハドロン実験施設で最初の物理実験となったE19は、2010年10月から11月にかけて初めての物理データ収集を行った。図は得られたp(π-,K-)反応のミッシングマス分布である。較正用に取得したΣ+粒子生成データの解析から、Θ+生成反応で1.4MeV(FWHM)という当初期待されたよりも高い質量分解能を達成していることが確認できている。これまでのところ、期待されるΘ+の質量1.53GeV付近に有意なピークは見つかっておらず、断面積の上限値として0.3μb/srが得られている。 この上限値は理論的な予想値と同程度であり、今後統計をあげて当初目標である75nb/srの感度を達成するべく実験を続ける。 (図2)LEPS2施設で用いる検出器用R&Dが進んでいる。Time Projection Chamber(TPC)用のマルチワイヤー式読み出し電極(左上図)の試験をLEPSの陽電子ビームを用いて行い、十分良い位置分解能:132mmを得た(左下図)。 粒子の飛行時間を測定し、運動量と合わせて粒子識別を担うために Resistive Plate Chamber (RPC)の開発を行っている。LEPSの陽電子を用いて試験器(右上図)を評価し70psの時間分解能が得られた(右下図)。今後、読み出し回路の改善を行い50psの分解能を目指す。

本研究は、Θ+やΛ(1405)といったストレンジクォークを含むバリオンのエキゾチックな状態について生成から崩壊まで包括的に測定し、その属性(質量、幅、内部自由度)を明らかにする。SPring-8のLEPS実験は最低5つの構成クォークからなるペンタクォークΘ+を世界で初めて見出した。このような従来にないエキゾチックな状態の存在形態を明らかにすることにより、従来の単純なクォーク模型を超えたハドロン形成の新しい描像を得ることができる。ハドロン内の構成クォークやクォーク・反クォーク及びクォーク・クォーク相関に対する理解を深め、クォーク閉じ込めとハドロンの質量獲得の機構解明への糸口をつかむ。

光子ビームを用いた研究活動:
  1. 昨年度に引き続きLEPS施設においてΘ+やΛ(1405)といったエキゾチックハドロンの分光実験研究を推進した。
  2. 実験効率をさらに向上させるため、高エネルギー光子ビーム強度の倍増化を図った。
  3. 実験効率を向上させるため、データ収集システムの高速化に取り組む。とくに、検出器の読み出し回路の並列処理化を施し、データ収集効率の飛躍的向上を目指す。そのための回路試作を通しての開発を進める。
  4. BNL-E949検出器の移送につき、電子回路類を輸送した。検出器と大型電磁石の解体を進め輸送にめどを立てた。
  5. LEPS2計画の実行計画書が認められ、実験建屋が建設された。

ハドロンビームを用いた研究活動:
  1. J-PARCにおいてπビームを用いたΘ+分光実験(E19)を実施した。
  2. J-PARCにおいてKビームを用いたΛ(1405)分光実験(E31)準備を進めた。


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