計画研究E01・平成23年度の研究の進捗と成果


(図1) BまたはB*中間子から成る束縛状態と共鳴状態のまとめ。 チャンネル結合の結果、Zb(10608)とZb(10653)が説明できることを示す。 (S.Ohkoda, Y.Yamaguchi, S.Yasui, K.Sudoh and A.Hosaka, Phys. Rev. D 86, 014004 から抜粋。) (図2) 上図:Dirac射影演算子のスペクトル関数。横軸は固有値を表す。 下図:クォークポテンシャルの値。横軸はクォーク間の距離を表す。青丸は、上図の白色で示されたモードを除き、赤色で示されたモードのみを含んだ場合のポテンシャルを表す。赤四角は、全てのモードを含んだ場合のポテンシャルを表す。 (H.Suganuma, S.Gongyo, T.Iritani and A.Yamamoto, arXiv:1112.1962 から抜粋。)

今年度の研究成果として、まずハドロン分子状態の理解に大きな進展があった。重いクォークを含む系で、重いクォーク対称性によってパイオン交換力がより重要になることを示し、テンソル力がもたらすチャンネル結合が系により安定な解をもたらすことを示した。その結果、昨年Belle実験で発見されたZb粒子の性質が自然に説明できることを示した(図1)。2つ目に、格子QCDによるクォークポテンシャルの計算で、閉込め力の起源が明らかにされたことがあげられる。Diracの射影演算子によって閉込め力への寄与を分解し、閉込め機構には低エネルギーモードの寄与は重要でないことを示した(図2)。このことはカイラル対称性の自発的破れを引き起こす低エネルギーモードとは独立に閉込めが起きることを示唆している。その他ホログラフィックQCDにより核物質の性質を調べる方法が提案された。定量的には今後一層の改善が必要だが、QCDの非摂動力学が原子核のレベルでどのように発現しているのかを突き止める上で重要と考えられる。  理論研究のもう一つの重要な役割は、異分野間の交流を進めることと若手育成である。前者では、新学術領域研究「素核宇宙融合」と共催で「クロスオーバー研究会」を開催し、二つの領域研究者による意見交換を深めた。特にQCDのもたらすハドロンの様々な存在形体に関して、有効構成子の意味を問う本質的な議論が交わされた。これはハドロンの構造を真に理解する上できわめて重要な視点である。また、若手育成では当初計画通りサマースクールを実施するとともに、一作年度のサマースクールの内容を講義録として、コミュニティー雑誌「原子核研究」に出版した。 

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Last updated 2014 Aug. 23rd