名古屋大学N研ATLASグループ

LHC-ATLAS 実験イベントディスプレイギャラリー

LHC-ATLAS 実験で記録された、さまざまな事象をイベントディスプレイで御紹介します。

終状態にタウレプトンを伴うトップクォーク対生成イベント

終状態にタウレプトンを伴うトップクォーク対生成事象のイベントディスプレイを紹介します。

終状態にタウレプトンを伴うトップクォーク対生成事象

まず、左上の絵をご覧ください。これは陽子陽子衝突地点を正面から見た絵です。 赤い線で書かれたのがミューオン、左下に見えるのがb-ジェット、右下に見えるのがタウジェット、右上に見えるのがもう一本のジェットで、終状態にタウを伴う事象に登場する主な粒子群が観測されているのがわかります。

次に、右下の絵をご覧ください。これは衝突点付近を拡大した図です。 左下に、水色で書かれた線がいくつか見えますが、これがb-ジェットに伴って放出された荷電粒子の飛跡を表しています。b-ジェットは他の粒子に比べて比較的寿命が長く、ある程度飛んでからジェットに崩壊することが知られています。その結果、この図のように、衝突点から有意に離れたところでジェットに崩壊していることが分かります。

名古屋大学のチームの高橋君が中心となってこのような事象の探索に貢献してきました。 詳しくは、こちら をご覧ください。

ダイジェット事象

ダイジェット事象 https://twiki.cern.ch/twiki/bin/view/Atlas/EventDisplayPublicResults

ハドロンカロリメータで測定されたハドロンシャワーがジェットとして同定されていて、赤色の円錐で表示されています。イベントディスプレイ中には二つの円錐が表示されていますが、これは 2 本のジェットが同定されていることを示し、このイベントはダイジェット事象と呼ばれます。

陽子-陽子衝突実験である LHC-ATLAS 実験では、陽子に含まれるクォーク・グルーオン(これらの構成要素をパートンと呼びます)が散乱される事象が数多く観測されます。 これらのパートン同士の散乱は、ジェットとして観測されます。 クォーク・グルーオンは単体として存在することができないため(クォークの閉じ込め)、終状態である中間子・バリオンといったハドロン粒子の束として観測することになります。この粒子の束のことを高エネルギー物理学ではジェットと呼びます。 この事象は、7 TeV の衝突において、衝突した二つの陽子に含まれるパートン同士が散乱され、二本のジェットとして観測をされたものと考えることができます。ハドロン粒子が局所的に生成されたことを、ハドロンカロリーメータでのエネルギー損失を測定することで同定します。

ミューオン事象

ミューオン in 7 TeV 衝突  https://twiki.cern.ch/twiki/bin/view/Atlas/EventDisplayPublicResults

衝突点から伸びるミューオン飛跡 (赤色の線) を正確にとらえることができた事象です。

ミューオンは以下の三つの特性をもちます。(1) 物質をよく透過し、(2) 電荷をもつため飛跡検出が可能、かつ (3) 磁場中でローレンツ運動をする。この特性の利用して、ミュー粒子の粒子同定と、運動量の測定を行います。外側のミューオン検出器(イベントディスプレイ中の青色の箱)で検出された飛跡をずっと伸ばしていくと、内側の検出器で検出された飛跡と合致し、「衝突点から飛来したミューオンであると」断言することができます。(これをミュー粒子同定といいます。) また検出器中にはコイルを用いて磁場を発生させてあり、その磁場中での曲がり具合からミューオンの運動量を測定します。高いエネルギーをもったミューオンならば、磁場中でも曲がらずまっすぐ突き抜けてくるべし、というとても直観的な手法でエネルギー(運動量)の測定をおこないます。(良く見ると図の赤色の線は曲がっていることがご覧いただけます。これから低い運動量のミューオンであることがわかります。)

QCDダイミューオン事象

QCDダイジェット事象 https://twiki.cern.ch/twiki/bin/view/Atlas/EventDisplayPublicResults

複数のジェットと、二本のミューオンが同時に測定されたイベントディスプレイです。

二本のミューオンはともにジェットに随伴をしているため、ジェットを構成するハドロンが崩壊してミューオンが生じた事象であると考えることができます。特に重いクォーク(チャームクォーク、ボトムクォーク)からなるハドロンは弱い相互作用を介して、ミューオンに崩壊する可能性があります。衝突自体は強い相互作用によるもので一次的に生成される粒子はクォークからなるハドロンです。検出されたミューオンは、ハドロンが崩壊する過程で生じた、二次的なミューオンであると考えられます。このようなミューオンを、高エネルギー物理学の研究者は俗に QCD ミューオンと呼びます。(QCD とは強い相互作用を記述する理論である量子色力学 (Quantum chromodynamics) をさす言葉です。) そのようなミューオンが、二本同時に検出されているので、このイベントは QCD ダイミューオン事象とよばれます。

LHC-ATLAS 実験で生成されるミューオンの大半は、このイベントで検出されているような、 QCD 過程で生成されたハドロンの崩壊現象に由来するミューオンです。

Wボソン事象

ミューオンへ崩壊するチャンネル

first W boson event http://atlas.web.cern.ch/Atlas/public/EVTDISPLAY/events.html

LHC-ATLAS 実験でのパートン同士の衝突は強い相互作用によるものだけではありません。 クォークとクォーク(正確には反クォーク)が衝突して、弱い相互作用による反応も稀に生じます。ここでいう、「弱い」、「強い」とは反応の実効的な結合定数に由来し、この結合の強さは反応の発生頻度に直結するものです。

この事象は、クォークとクォークが衝突して、重いゲージボソンであるWボソンが生成され、ミューオンとミューオンニュートリノに崩壊した事象を観測したものです。(1) 重い粒子に由来する高い運動量のミューオンが測定されること。且つ (2) 測定器と反応せず観測することができないミューオンニュートリノの運動量が、横方向のエネルギーのアンバランス(missing ET)として測定されています。

電子へ崩壊するチャンネル

first W boson event http://atlas.web.cern.ch/Atlas/public/EVTDISPLAY/events.html

ミューオンのチャンネルと同様に、電子と電子ニュートリノへの崩壊も同定度の確率でおきます。こちらの絵は、同じWボソンを、電子を手がかりに見つけた事象のイベントディスプレイです。ミューオンのチャンネルと同様に (1) 重い粒子に由来する高い運動量の電子が測定されること。且つ (2) 測定器と反応せず観測することができない電子ニュートリノの運動量が、横方向のエネルギーのアンバランス(missing ET)を特徴として、事象の同定を行います。

Zボソン事象

電子陽電子へ崩壊するチャンネル

first Z boson event https://twiki.cern.ch/twiki/bin/view/Atlas/EventDisplayPublicResults

Zボソンが 7 TeV の衝突中で生成され、電子陽電子(電子の反粒子)に崩壊をした現象をとらえたものです。上下に延びる黄色の線がそれぞれ電子と陽電子を表しています。ZボソンWボソン同様、重いゲージ粒子で、その代質量に由来する高い運動量の電子陽電子が衝突点から正反対の方向に飛び、電磁カロリメータで検出をされています。

Zボソンは、Wボソンと同じく、クォークと反クォークの衝突によって生成される素粒子で、同じく重いゲージボソンです。陽子の約 90 倍の質量を、一つの素粒子が持ちます。Zボソンはすぐに崩壊をしてしまうので崩壊終状態の粒子を捕まえることでその同定を行います。崩壊のパターンは、(1) 電子陽電子、(2) ミューオンと反ミューオン、(3) アップクォークと反アップクォーク、(4) ダウンクォークと反ダウンクォーク、まだまだありますが、粒子とその反粒子の対に崩壊をします。いくらかの崩壊チャンネルでは、(電子陽電子チャンネル等)、終状態の全ての粒子が、検出・再構成が可能であるため、エネルギー保存則と運動量保存則により、始状態であるZボソンのエネルギー・運動量を全て求めることが可能です。これは実験的にはとても扱いやすい性質といえます。特殊相対論を用いて、エネルギーと運動量より計算される質量が Mee = 89 GeV としてイベントディスプレイにも表示されています。(知っている値の 91 GeV に対して、89 GeV と、2% 程度のずれで、とても近い値を与えています。) これから沢山のZボソンの事象の測定データを用いて、過去の実験の測定結果と見比べることで、検出器の正確な較正を進めます。

ミュー粒子反ミュー粒子へ崩壊するチャンネル

7TeV 衝突中で観測された Z ボソンがミュー粒子・反ミュー粒子に崩壊する事象

ミューオン反ミューオンに崩壊した事象を捉えたものです。一点の衝突点から最外殻のミュー粒子測定器まで ATLAS 検出器を貫く鮮明な二本の高運動量ミュー粒子の飛跡を検出しました。それぞれの飛跡を内挿することによりミュー粒子の発生点は50ミクロン(髪の毛一本の太さ程度)よりも高い精度で測定することが可能で、Zボソンが崩壊してできた二本のミュー粒子であることを正確にとらえます。また質量が陽子の 91 倍もある重たいZボソンの崩壊終状態であるミュー粒子はとても高い運動量を持ち、磁場中でほとんど曲がらず、直線の飛跡として検出されます。 電子陽電子対への崩壊様式の場合と同様、終状態の二本のミュー粒子の運動量を精密に測定することより、始状態の Zボソンの質量が測定可能です。本事象では 87 GeV と測定されており、Zボソン事象の候補であるといえます。

K0(short) 中間子事象

K0 short events https://twiki.cern.ch/twiki/bin/view/Atlas/EventDisplay2009PublicResults

2009年の 2 TeV 衝突の実験で測定されたK0(short) 中間子が生成された事象です。中性の K0(short) 中間子が生成され、検出器中で異符号の荷電パイ中間子二つに崩壊した事象をとらえています。

中性のK中間子は、その崩壊様式により、パイ中間子二つに壊れる K0(short) 中間子 と、パイ中間子三つに壊れるK0(long)中間子と分類されます。 short、 long はそれぞれ寿命の長い短いを表していて、 K0(short)中間子 は 90ピコ秒で崩壊し、K0(Long) は 50ナノ秒で崩壊します。

本イベントディスプレイは短寿命の K0 (short) 中間子は、衝突で生成されたのち、、検出器の一番内側の飛跡検出器中でで崩壊しています。生成直後は中性粒子であるため電磁相互作用はせず、飛跡検出器中に信号を残しません。しかし二つの荷電パイ中間子へ崩壊した後は、飛跡をのこします。このような性質により、衝突点から少し離れた点から二つの荷電粒子飛跡が現れるという特徴的なイベントとして検出されます。また二つの飛跡の曲率が逆向きであることから、異符号に帯電した荷電粒子であることも確認できます。

J/ψ事象

J/psi event

7TeVの陽子・陽子衝突で生成した粒子群の中からJ/ψ粒子(チャーム・クォークと反チャーム・クォーク)が現れ、J/ψ粒子がμ粒子と反μ粒子対に崩壊した事象を捉えたイベントディスプレイ。J/ψ粒子は、チャーム・クォーク発見の11月革命を演出した粒子であり、現在の素粒子標準模型を完成へと導いた粒子と言っても過言ではありません。 およそ5%のJ/ψ粒子は、μ粒子・反μ粒子対に崩壊します。図の青色の線がμ粒子の飛跡を表し、この飛跡の運動量をもとにJ/ψ粒子の不変質量を測定すると、J/ψ粒子の質量である3.1GeVとなっています。

  この様な事象は、イベントディスプレイから明らかな様に、鮮明なμ粒子飛跡を残すので、飛跡検出器やμ粒子検出器のキャリブレーションにとって、J/ψ粒子は不可欠と成っています。

J/psi event

bクォーク ジェット事象

b-jet event

bクォークが生まれると、cクォークを主とするクォークやレプトンに崩壊しますが、崩壊までに要する時間は、数ピコ秒(10-12秒)と他のクォークと比べて長いです。陽子・陽子衝突で生成されるbクォークは、光の速度と同程度の速度で運動しているので、崩壊するまでに進む距離は、光速(秒速3×108メートル)×10-12秒∼500マイクロメートル、更に、光速で進んでいる物質は、止まっている物質と比べ、時間がゆっくり流れていることを示すローレンツ係数を考慮すると、bクォークは検出器内を平均数ミリメーター進んでからcクォークなどに崩壊します。つまり数ミリメートルbクォークの状態で検出器内を彷徨ったのち、粒子群(平均的に5本程度の荷電粒子と同じ本数の中性粒子に崩壊します)に崩壊する性質を持っています。

  ここで改めてイベントディスプレーを見てみよう。緑色の球が示しているものは陽子・陽子の衝突点です。そして、それを中心にして3方向に円錐コーンが描かれていますが、これがクォークあるいはグルーオンの崩壊によってできたジェットとなります。そして、左下方向に伸びているジェットによる円錐コーンの中身を見てみよう。衝突点からは少々離れた部分に荷電粒子(オレンジ線)の集まっているところが見られる。実は、荷電粒子群は、この集まっているところから発生したことを示しており、緑色の球からこのオレンジ線の集まりまでの間、bクォークが飛んだ可能性が高いことを示しています。


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Last-modified: 2012-04-29 (日) 14:07:34 (2057d)