名古屋大学N研ATLASグループ

私の研究

私は現在、欧州原子核研究機構 (CERN : スイス・ジュネーブ) においてトップクォーク対生成断面積測定の研究を行っています。

究極粒子のカタログ作り

素粒子標準カタログ

物質を細かく砕いていって最終的に辿り着く粒子のことを、素粒子(究極粒子)と呼びます。 私はこの究極粒子のカタログ作りをしたいと思って素粒子物理学実験をやることに決めました。 自分の体を作っている粒子の本当の性質すら知らないなんて、気持ち悪いじゃないですか !?

さて現在の素粒子標準カタログには、6つのクォーク、6つのレプトン、さらにそれらの間を仲介して 相互作用を担うゲージボソンがリストアップされています(右図)。
しかし「このカタログは完璧 ??? 」と問われると NO です。特に、

  • 粒子に質量を与えるとされるヒグス粒子
  • 既存の粒子とスピンのみが異なる相棒ー超対称性粒子

はキーパーソンでありながら未検証であり、早急な決定打ーそれも実験的なーが必要なのです。

私は、多くの超対称性理論で予言されている荷電ヒグス粒子の探索に興味を持っています。 荷電ヒグス粒子を探す一つの有用な方法は、トップクォーク対生成事象を詳しく調べることです。

LHC-ATLAS実験へ

まずはトップクォーク対生成のダイアグラム (下) を見て下さい。

トップクォーク対生成事象

現在、tクォークはbクォークとWボソンにほぼ 100% の割合で崩壊すると信じられていますが、 仮に荷電ヒッグス粒子が存在した場合、tクォークはbクォークと荷電ヒッグス粒子にも崩壊可能となります。 よって上に挙げた崩壊過程の数を丹念に数え上げ、我々の予想値と比べることで、 荷電ヒッグス粒子の存在検証を行うことができます。ただし、そのためには多くのトップクォーク対生成事象が要る。

そこで目を付けたのが、LHC-ATLAS実験 *1です。 この実験は到達エネルギー 14TeV、輝度 1034cm-2s-1, 共に世界最高水準の陽子陽子衝突型実験で、 地下100mに幅44m,φ25mの円筒検出器(ATLAS検出器)が配されています。 この検出器の中心部で大量(10^11)の陽子同士をぶつけ、年間80万個のトップクォーク対生成を観測することができますこれは過去の類似実験であるTevatron(米国)に比べ、400倍の生成能力であり、現存でトップクラスのトップクォーク精製工場なのです。

千里の道も一里から

TGC検出器

ATLAS実験はこれからまさにデータ収集を始める実験です。 それまでは自分のやりたい物理を見据えて、アトラス検出器がきちんと動くように 出来る限りを尽くすことが大切です。

私は特に新物理探索の優れたプローブであるミュー粒子に着目して、 ATLAS検出器前後方のミュー粒子トリガー検出器(TGC)の性能評価を中心的に行ってきました。 これまでに、

  • TGC検出器の統合試運転 (アトラス検出器全体との25ns での同期運転)
  • 実地での検出効率評価
  • 検出器のモニタリングシステムの構築

を主に果して来ました。特に検出効率評価に関して、その集大成としてICATPP(International Conference on Advanced Technology and Physics)国際会議での発表も行いました。詳しくはこちらをご覧ください。

また先日のビーム衝突の際にはコントロールルームからTGC検出器の操作を担当し、 海外の研究者とともに最前線での研究を楽しみました。この時の様子は、こちら

トップクォークの生成断面積測定

検出器の統合試運転も終わり、私は現在、トップクォークの対生成断面積測定に 本格的に取り組んでいます。

具体的にはtt→W(τν)W(μν)bb 崩壊の生成断面積測定を行っています:

  • 2010年中に得られる100pb-1 のデータ中にどの程度の事象数が期待できるのか ?
  • その誤差はどの程度なのか ?
  • 背景事象はどのような物理過程か ?

最後に強調しておきますが、これから先の少なくとも10年は、疑いの余地なく実験主導期です。実験屋にとって、これ以上ないエキサイティングな時代がやってくるのです。物理のフロンティアを大いに楽しみたいですね。


*1 スイス・ジュネーブ近郊の欧州原子核研究機構(CERN) にある

Last-modified: 2010-05-30 (日) 23:21:52 (2753d)