イベントディスプレイギャラリー

前置き

Ks 中間子の紹介をする前に、まずは K中間子を抑えておきましょう。 K中間子(kaon:ケーオン)はストレンジクォークを含む中間子で、下記の4種類があります。

  • su からなる K- 中間子
  • us からなる K+ 中間子
  • ds からなる K0 中間子
  • sd からなる K0 中間子

ここで一つだけ、ストレンジネス(奇妙さ)という言葉を定義しておきましょう。 ストレンジネス(S)とは、ストレンジクォーク(s)の数を表す量で、歴史的経緯から s クォークに対して-1、s クォークに対して+1を当てがうことになっています。 従って、K- 中間子はS=-1, K+ 中間子はS=+1, K0 中間子はS=+1, K0 中間子は S=-1 ということになりますね。

ストレンジネスは、強い相互作用と電磁相互作用が関わる反応では反応の前後で必ず保存します。しかし、弱い相互作用では保存しません。このことは非常に重要なことです。

Ks 中間子とは

1950~1960年頃の話です。K0 中間子の崩壊過程を詳しく調べてみると、 平均寿命が8.9x10-11 秒で、主に2つのπ中間子に壊れるケース(Ks → π+π-, またはKs → π0π0)と、平均寿命が5.2x10-8秒で、主に3つのπ中間子に壊れるケース(KL → π+π-π0、またはKL → π0π0π0)があることがわかりました。 そこでこれらの2つのケースを区別するために、もはやK0 中間子とは考えずに、前者をKs中間子、後者をKL 中間子と呼んで、別々の粒子だとしましょう。添字は、long, short の略で、それぞれの寿命の長さを表します。これがKs中間子と呼ばれる所以です。

その後、KsやKL は Mass (質量)の固有状態で、 flavour (香り)の固有状態であるK0 中間子と K0 中間子の混合状態であると考えられるようになりました。我々が観測するのは Mass の固有状態としての粒子の側面なのです。なぜなら、 我々が粒子を認識するときは粒子の寿命や崩壊幅で、これらは質量によって特徴付けられる量だからです。

Ksの性質

質量497.614±0.024
電荷0
スピン0
平均寿命0.8953 ± 0.0005 x 10-10 秒 (cτ=2.6842 cm)
相互作用強い相互作用、弱い相互作用
主な崩壊K0 → π+ π- (70%) 、K0 → π0 π0 (30%)
発見年1947年
発見者ジョージ・ロチェスター、クリフォード・バトラー
発見した実験など宇宙線
その他重要な発見CP対称性の破れ(1964年:ジェイムズ・クローニン、ヴァル・フィッチ)

そして、CP非保存の物理へ

まず、Ks、KL の崩壊過程を復習しておきましょう。

  • Ks → π+π-, またはKs → π0π0
  • KL → π+π-π0、またはKL → π0π0π0

ここでCPという言葉を定義します。ここで言うCとかPは、物理的な変換動作を指す言葉で、 Cは荷電変換、Pはパリティー変換と言います。 難しそうに聞こえますか? 実は全然難しくありません。

荷電変換(C変換)とは、要は粒子の電荷の符号を変える作業のことを言います。例えばπ+中間子のC変換をするとπ-中間子となって、π+ 中間子の反粒子になりますね。 ではπ0中間子のC変換は? 電荷が0なのでπ0中間子のまま変わりません。このように、C変換で元の粒子のままである場合を+1、反粒子になる場合を -1 と定義します。

次にパリティー(P)変換。これは空間反転を指す言葉です。 例えば原点に対して +x の方向に進んでいる粒子に対して P 変換をすると -x の方向に進んでいる粒子になります。パリティーは起動角運動量(L)と、スピン(S)が関わってくるのでここでは詳しく触れませんが、基本的にPが+1か-1かは、(-1)L+S で計算することができます。そしてパリティー変換に対してそのままの場合はパリティー+1、そうでない場合はパリティー-1とします。π中間子のパリティーは-1です。ひとまず、このことを覚えておいて下さい。

さて、Ks中間子の崩壊で出てくるπ+π-, または π0π0 のCPが+1か、-1かを考えてみると、 まずC変換ではπ- がπ+ に、あるいはその逆が起こるだけなので全体としては +1 、 P変換は-1が2つあるので、全体としては (-1)x(-1)で +1 となります。よって結果は CP +1 ということになりますね。同様に考えると、KL中間子のCPは-1であることがわかります(計算してみてください)。

ということは、2つのπ中間子に崩壊する Ks 中間子は CP+1、KL中間子は CP -1 の状態だと考えてよさそうです。...ですが、真実は違っていたのです。

クローニン・フィッチの実験

1964年、クローニンとフィッチは、KsとKL の寿命が異なることを利用して純粋にKL からなるビームを作り出し、それらの崩壊過程を丹念に調べて上で述べたことが本当に成り立っているかどうかを調べました(下図)。 ちなみに本実験に用いられているスパークチェンバー(spark chamber)はN研究室初代教授であった福井崇時さんが発明したもので、日本が誇る大発明の一つです。時々N研究室にも来られる気さくなおじいさんです。

CPV.jpg

その結果、驚くべきことに、KL→π+π- なる崩壊もわずかながら起こっていることが明らかになったのです。なぜなら、CP-1 の固有状態であると思っていた KL が、CP+1の固有状態であるπ+π-に崩壊していることになるからです。

つまり、CPの固有状態はMassの固有状態と一対一に対応していない!ということが明らかになったのです。 私たちが Mass の固有状態で粒子を見ている以上、弱い相互作用においてCP は保存しないということを言っているわけですね。これを、CP対称性の破れ、と言います。ただし、Ks, KL のCP対称性の破れは微々たるものでした。

その後、名大の三田一郎教授(元E研教授)が中心となって、B(db), B(bd)ではより大きく破れが観測されるだろう、と予言しました。なぜなら(定性的には)、K中間子では最初の2世代しか崩壊に関与していなかったのに対し、B中間子では3世代目も関与することができるようになるからです。

実際、その効果は Belle 実験で明らかにされ、日本が誇る大成果となって小林益川理論の裏付けを与えることになったのです。


Last-modified: 2010-06-03 (木) 22:08:12 (2748d)