Research Highlight

2009年11月23日 : LHC-ATLAS 実験・重心系エネルギー900GeVでのビーム衝突に成功!!

ビームコミッショニング再開からわずか3日目の今日 、ATLAS 実験ホールにて450GeV 同士の陽子ビームの衝突に成功しました。 ATLAS 公式ウェブページ(英語) にてイベントディスプレイがご覧いただける他、 CERN プレスリリース ではATLASスポークスパーソンやCERN所長のコメントが取り上げられています。 今後はビームのエネルギー・強度を上げてゆき、 クリスマスまでに両ビーム 1.2TeVでの衝突を目指します。
いよいよ実験が本格稼働を始め 一時たりとも気を抜く事ができません。 今後も現場最前線から研究成果を紹介できるよう頑張っていきます!

2009年11月20日 : LHC 運転再開・ATLAS検出器でのビーム由来粒子の検出に成功!


メンテナンスを進めてきたLHC加速器が遂に運転を再開し、ATLAS 検出器でも ビームの二次・三次粒子粒子の検出に成功しました。 コントロールルームにはビーム到着を待ち望んでいた研究者たちが詰めかけ その瞬間を固唾をのんで見守り、 イベントディスプレイにビームイベントが表示されると 歓喜の声がわき起こりました。
当日のコントロールルームの様子やイベントディスプレイは ATLAS 公式ウェブページ(英語) でご覧いただけます。
今回のビームデータにより これまで進めて検出器のハード・ソフト両面からの構築、 また宇宙線を使っての検出器コミッショニングが正しく進められてきた事が確認できました。 しかしまだまだ気を抜く事はできません。 現場の緊張した空気の中、 2週間後に予定してる900GeVでの衝突、さらにそれに続く 高エネルギーでの実験開始に向け研究を進めています。

2009年11月予定のLHC加速器開始に向けて

昨年9月の陽子ビーム周回に成功後1週間後の9月23日、LHC加速器のトンネル内で事故が発生しました。 加速器の2つの超伝導磁石間の電気的接続部で電気抵抗が増加し発熱し放電したことが引き金となり、その結果、 超伝導磁石を摂氏マイナス271度にまで冷却するのに必要な液体ヘリウムが真空容器に漏れ出し気化し圧力が急上昇しました。 これまでに、53台の磁石を地上に取り出し修理を行い、さらに、同様の事故を他でも起さないよう、様々な 検出装置を設置するなどの改善を行っています。そして、11月からLHC加速器の運転再開し、年内にでも 3.5TeV+3.5TeVの陽子・陽子衝突を実施する予定です。実現すれば、世界最高エネルギーとなり、新しい素粒子開拓 への第一歩をふみだすことになります。その後、エネルギーを増加していき、2010年末にLHC加速器を止め、 設計値である7TeV+7TeV衝突エネルギーに向けたを作業を開始する予定です。 LHC加速器の正式なスタートアップスケジュール

私達は、この期間を有効に利用し、宇宙線を用いてμ粒子検出器の最終的な仕上を行っています。 検出器は非常に良い状態にまで仕上がってきており、研究員の杉本拓也君や博士後期課程の長谷川慧君を中心に大型検出器の周りを 縦横無尽に走りまわりながら最終的なハード調整を実施しています。 さらに、検出器の性能で最も重要な検出効率が設計目標値に届いていることなどをデータで立証するなどの活躍をしています。 そして、こうした実績を世に発信するべく、N研究室の博士後期課程学生である高橋悠太君が10月5日から9日に行われた ICATPP(International Conferenceon Advanced Technology and Particle Physics )国際会議でその研究成果を発表するなど、非常に活発な研究活動を展開している真最中です。高橋君の発表の様子はこちらでご覧いただけます(注意:容量の大きなファイルです)。

さらに、私たち名古屋大学チームでは、博士後期課程学生である奥村恭幸君を中心にトップクォーク物理などの物理解析を開始しはじめ、 ビーム衝突に向けた研究をも視野に入れはじめています。今は、シミュレーション解析が主ですが、世界最高エネルギー衝突が起ったら どんどん物理解析も進めていきます。


LHC物理部門の研究内容
  スイス ジュネーブ近郊のCERN 研究所には、名古屋市営地下鉄名城線周長のLHC加速器 (Large Hadron Collider)があります。タウ・レプトン物理研究センターLHC物理部門では、このLHC実験のひとつであるATLAS実験の研究を進め、人類が未だ目にしたことがない新しい素粒子や 素粒子現象を発見しようとしています。素粒子の最重要課題の解明を目指し世界中から集結した研究員と競争・協力しながら、国際共同プロジェクトを主体的に推進しています。

欧州CERN研究所とATLAS実験

欧州CERN研究所は、 電子・陽電子衝突型LEP加速器実験をはじめとする過去の実験で素粒子物理学に多大な貢献をしてきました。 また、今あなたが使っているWWW(World Wide Web)の発祥の地であります。これは 世界中の高エネルギー物理学者のコミュニケーションの手段として作られ、今や人々の情報収集、提供 手段として当たり前の物となりました。

今回新たに、欧州CERN研究所は陽子・陽子衝突型加速器実験(LHC実験:Large Hadron Collider実験) を2007年の実験開始に向け建設しています。 LHC実験は周長27km(名古屋市地下鉄の名城線とほぼ同じ)の加速器リングで加速した陽子を14TeV(14テラ電子ボルト;14,000,000,000,000 電子ボルト) という膨大なエネルギーで衝突させます。これは世界一のエネルギーを誇るエネルギーフロンティア実験となります (現在の最高エネルギーはアメリカ、イリノイ州にあるテバトロン加速器で2TeVの陽子・反陽子衝突型加速器実験)。 よって、我々が今まで開拓したことがないエネルギー領域での新粒子、新現象の発見の可能性が十分にあります。 特に、素粒子が質量を獲得するのに不可欠なヒッグス粒子は、現在の素粒子理論(「標準模型」)がが予言する唯一の未発見です。 このヒッグス粒子の発見はLHC実験でなされることはほぼ確実だと信じられています。 LHC計画は、ATLAS実験とCMS実験の汎用実験、LHCb実験、ALICE実験の特定の物理に絞った実験から構成され、2010年、いよいよ 物理データを収集開始いたします。 当センターではATLAS実験グループに属し、ミューオン検出器の建設研究を主体的に推進しています。 ある時は名古屋大学で、またある時はCERN研究所の現場での研究を行っています。


ATLAS実験での物理

我々の周りにある物質を細かくしていくと、電子と原子核で構成される原子からなることは皆さん ご存じかと思います。この中で、電子はこれ以上分けられない粒子、つまり素粒子です。 原子核は、更に細かくしていくと、クォークと呼ばれる素粒子に辿り着きます。 現在の素粒子物理学では、全ての物質は、6種類のクォーク、6種類のレプトンの素粒子により 構成され、その素粒子間をゲージ粒子(光子、グルーオン、W/Zボゾン)が交換することに より力が生じます(右図)。これは「標準模型」と呼ばれ、素粒子現象をよく記述している理論です。 しかしながら、「標準模型」で予言され、素粒子の質量起源という重要なな役割を担う、 「ヒッグス粒子」だけは未だ未発見のままです。 「ヒッグス粒子」は、これまでの実験でも探索されていますが、探索するエネルギー領域が小さかったことや、 十分なデータ量がたまらないことにより未発見のままです。自然界に存在すれば、人類は初めて、 その姿をLHC実験捕らえることになるでしょう。或いは、実際の自然界に、そのような粒子は 存在していないのかもしれません。LHC実験によりその疑問があきらかになります。 ヒッグス粒子が見つかれば、「標準模型」の核となる部分の研究がどんどんできますし、 仮に、LHC実験で見つからなかった場合には、我々は「標準模型」を超える何かを見つけたことになります。

更に、LHC実験では、「標準模型」を超えるような、新しい素粒子像の探索を目指します。 未知のエネルギー領域では、これまでの理論では想像だにしない新粒子や新現象があるかもしれません。 このような未知の現象を探ることで、我々はより究極的な素粒子像を構築しようとしているのです。



ミューオン検出器

衝突点で生成したミューオンは、物質とほとんど相互作用することなく通り抜けます。 よって、検出器の最も外側にミューオンを捉える検出器をおけば、効率よくミューオンを捉える事が可能となります (くわしい解説)。 ATLAS検出器では4種類のミューオン検出器が用いられます。 そのうち、エンドキャップ部分(円筒のフタにあたる円盤部分)に配置され、トリガーを生成するのが、当研究室で研究を行っているThin Gap Chamber(TGC)と呼ばれる検出器です。 トリガーとは、「いつ興味のある物理現象が起きたか」を判別する(引き金を引く)ためのしくみの事を表します。 陽子と陽子が衝突すると非常にたくさんの粒子が生成されます。 その中から興味のある現象(イベント)とその他(バックグラウンド)を選別するのがトリガー検出器の役割です。

図1の写真がTGCです。 大きさは約2m2程度で、畳1枚くらいの大きさになります。 TGCは、多線式比例計数管(Multi Wire Proportional Chamber:MWPC)と呼ばれる放射線検出器の一種で、内部に多数の細いワイヤーが張られています(図2参照)。 高電圧を印加した細いワイヤーの周りに特殊なガス(CO2+n-Pentan = 55:45)を流します。 そこへ荷電粒子が通過するとCO2ガスが電離され電子とイオンに分かれ、電子がワイヤーへ集まる事で電気信号となります。 イメージとしては、コンビニなどの軒先にある、青白い光を放ってぶら下がっている電撃殺虫器を思い浮かべてください。 殺虫器に虫が入ると、高電圧が印加されているため放電が起こり、それにより虫が焼き殺されます。 今の場合、虫が荷電粒子に相当します。 このようにして、荷電粒子(ミューオン)の通過を検出します。

図1 TGCの写真 図2 TGCの構造 (断面図)

当研究室では、TGCシステムの建設ならびにTGC用のデータ取得ソフトウエアの開発を行っております。 TGCは円盤を12分割した扇形のフレームに順次設置され、エレクトロニクスの接続やガスの流入など様々な動作テストを行った後に、地下100mの実験ホールに移され円盤状に組み上げられます。 下の写真は、TGCを設置した後の扇形フレームの写真です。 この後、実験ホールに降ろされ、円盤状に組み上げられます。

図3 1/12 セクター (1セクター分) 図4 1/12 セクター (6セクター分)

LHC物理部門の研究成果
センターから発信している論文、国際会議

名古屋大学 タウ・レプトン物理研究センター

Nagoya University Tau-Lepton Physics Research Center

〒464-8602 名古屋市千種区不老町 名古屋大学大学院理学研究科

Phone:052-789-2902 Fax:052-782-5752

WWW-admin@hepl.phys.nagoya-u.ac.jp