Research Highlight

2010年3月
2009年度の成果(タウレプトンからレプトンフレーバーを破る崩壊の探索)

  素粒子の標準模型では、レプトンのフレーバー(電子数、ミュー数、タウ数)は保存するようにできています。 しかし、ニュートリノ振動の発見により、実際にはレプトンフレーバーは破れていることが分かっていますが、 荷電レプトンの崩壊におけるレプトン数の破れまだ観測されていません。 もし、荷電レプトンのレプトンフレーバーを破る崩壊がニュートリノの寄与だけによるとすると、 分岐比は10-50以下であり、その観測は今の実験では不可能であると考えられています。 ところが、標準模型を超える新しい物理が存在すれば、 その分岐比は現在の実験において観測可能な大きさを持つ事ができると予言されています。 よって、荷電レプトンにおけるレプトンフレーバーを破る事象の探索を行うことは、 新しい物理の探索において重要であり、その観測が期待されております。 特に、荷電レプトンの中でもタウレプトンは、他のレプトンに比べて質量が大きいため、 いろいろな新しい物理に感度が高いと考えられています。

 私たちは国際協力実験Belle実験で得られた世界一の高統計のタウレプトン対のデータを用いて、 様々なレプトンフレーバーを破るτレプトンの崩壊の探索を行っております。 2009年度には、終状態に(1)レプトンと一つ、もしく二つのK0sメソン、(2)3つのレプトン、 (3)レプトンと二つの荷電中間子への崩壊について、解析を行いました。 残念ながら、まだ信号は観測されておりませんが、 まもなく、その分岐比の上限値は10-9に入るところまできています。 上の図は、Belle、BaBar, CLEO実験における現在のτレプトンからレプトンフレーバーを破る様々な崩壊の上限値を示しており、 以前のCLEO実験から1桁以上の大きな向上に成功しております。 その探索感度は世界最高レベルに入って、その観測が期待されております。

タウ・レプトン物理部門の研究内容
当センターでは、つくば市高エネルギー加速器研究機構で行っている 国際共同実験Belleで得られる大量のデータを用いて、物理解析を行っています。 本解析グループでは、10.58GeVの中心エネルギーで衝突させた電子・陽電子の 対消滅によって生み出される大量のB中間子対及びタウ・レプトン対の反応の様子を解析することで、 新しい物理像の構築を目指しています。

Belle実験

実験データは、Belle測定器で収集されます。 測定器は、全体で9m x 9m x 9mと大きなものになっており、 その中心で電子・陽電子を衝突・対消滅させます。 衝突によって生み出される粒子の崩壊の様子を、 Belle測定器で精密に測定することで、衝突の瞬間に起きた現象を 精度良く調査することができます。

Belle測定器は、筑波山の麓にある高エネルギー加速器研究機構に設置された KEKB加速器と共に運転されています。KEKB加速器では、線形加速器によって 電子を8GeV、陽電子を3.5GeVに加速した後、メインリングに連続的に入射され、 1アンペア程度の蓄積量を保ちつつ衝突させています。 こうして高い電流量で衝突させるため、電子・陽電子の対消滅頻度 (エネルギーが生み出される輝度)が世界最高となっています。

Belle測定器では、世界最高輝度によって生み出される、高頻度のB中間子対、 タウ粒子対事象の崩壊の様子を高精度で調べることで、ごく稀に起こる新しい現象や、 予想とは異なる反応を発見し、素粒子世界の探索を行っています。

解析テーマ

本センターでは、以下のテーマを研究しています。

○CP対称性の破れの機構の解明
CP対称性の破れは、小林・益川理論によると、3世代6種類のクォークの種類(フレーバー)が変化(混合)する際に引き起こされます。 2001年の夏に、Belle実験では、 B→J/ψK0崩壊において大きなCP対称性の破れを発見することに成功し、 その後の検証で、このCP対称性の破れが、小林益川理論の描像とほぼ一致することが判明しました。 その一方で、物質宇宙の創生には、小林・益川理論を超えたCP対称性の破れが必要であることが分かってくるなど、 新しい物理現象の探索が重要になっています。 当部門では、B0→φK0, η'K0などのペンギン崩壊と よばれる稀崩壊過程におけるCP対称性の破れに注目し、超対称性などの新粒子の影響を探索しています。

○新しい物理の探索
素粒子世界を記述する標準理論とよばれる理論は、ほぼ正確に現実世界の物理現象を予言できますが、 完璧ではありません。 本テーマでは、それを超えた新しい物理現象を発見することで、 さらに究極の素粒子像を築きあげることを目標としています。 具体的な解析テーマとして、タウ・レプトン反応を使った、レプトン数の破れの探索・レプトン系のCP対称性の破れの探索 電気双極子モーメント、B中間子のタウオニック崩壊における荷電ヒッグスの探索などを行っています。

○標準理論の超高精度検証
新しい物理像を構築すると同時に、大量のB中間子とタウ・レプトン粒子の反応を利用して 現在の標準理論の精密検証も行っています。 いままでは発見できなかった反応や、量が少なく精度の良い測定ができなかった反応などを測定することで、 小林・益川行列要素をはじめとする、標準理論で予言されるパラメータの超精密検証を行います。 B中間子反応やタウ粒子反応以外の現象で決められた予言パラメータと一致するかどうかを確かめています。

タウ・レプトン物理部門の研究成果
センターから発信している論文、国際会議

名古屋大学 タウ・レプトン物理研究センター

Nagoya University Tau-Lepton Physics Research Center

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