計画研究A03:タウレプトンの物理
代表 | 大島 隆義 | 名古屋大学大学院理学研究科 | 教授 | 素粒子実験 |
| 三田 一郎 | 名古屋大学大学院理学研究科 | 教授 | 素粒子理論 |
| 千代 勝実 | 名古屋大学大学院理学研究科 | 助手 | 素粒子実験 |
| 林井 久樹 | 奈良女子大学理学部物理 | 教授 | 素粒子実験 |
| 山口 晃 | 東北大学大学院理学研究科 | 教授 | 素粒子実験 |
| | | | 以上5名 |
研究の進展状況とこれまでの主な研究成果
タウの物理
2005年3月までにBファクトリー実験では約380fb^-1のデータを収集した。このデータに
含まれるタウレプトン反応を選び出し、標準理論の検証並びに新しい物理の探索を
行なっている。
収集されたデータの内、約150fb^-1のデータを用いてレプトンの香り保存を破る崩壊
tau->lll, l pi0/eta/eta' の探索を行ない、90%の信頼度でおおよそ3x10^-7の崩壊
分岐比の上限値を得た。さらに、バリオン数保存をも破る崩壊 tau->p gamma, p pi0,
Lambda pi などの探索も新しく行ない、10^-8程度の上限値を得た。
これらのモードを含め、他の崩壊モードでもより大量のデータを用いた解析が
進行中である。
また、ハドロン崩壊 tau -> pi pi0 nu, pi pi pi nu を利用し、rho, omega への
崩壊分岐比やメソン質量分布の精密測定を行なっている。
粒子識別装置の開発
Bファクトリー実験の次期計画のための次世代型粒子識別装置(TOPカウンター)の
開発研究を行なっている。TOPカウンターはチェレンコフ光を利用した粒子識別装置
であり、輻射体である石英をその光速度より速い荷電粒子が通過した際に発生する
チェレンコフ光を輻射体端面に取り付けた光検出器で検出する。現在は主に、測定器
としての詳細なシミュレーション解析と光検出器の開発を行なっている。
シミュレーション解析では、前年度に引き続き、実用的なデザインの元に
Bファクトリー実験装置の一部として使用した際の、現実的な性能の評価を行なった。
さらに、得られた結果を元に識別能力を向上させるための輻射体デザインを行なって
いる。
光電子増倍管の開発では、主に、多チャンネル間のクロストークを減らすべく、構造
体の改良を行ない試作をし、性能評価を行なった。また、識別能力を向上させるため
長波長に対し高い感度をもつ光電面の調査、試験を行なっている。また、光電面の
寿命の測定を行なっており、ロシアBINP研究所などと協力し、その向上を目指してい
る。
研究項目の連携状況
名古屋大学が中心となりBファクトリー実験で得られたデータの管理を行ない、
各大学より名古屋大学のコンピュータを利用して解析を行なっている。
名古屋大学と東北大学では主にレプトンの香りを破る崩壊の探索を行ない、
奈良女子大学ではハドロン崩壊の測定を行なっている。各研究課題の解析で
得られた情報は共有され、互いにデータの校正などに利用している。
三田氏を始めとする理論グループはBファクトリー研究会などを開催して
理論物理の議論を深め、その情報を本研究組織で共有している。
研究費の使用状況
タウの物理
Bファクトリー実験で収集された約400fb^-1の大量のデータを蓄積し解析を
進めるために、比較的低価格で大容量のディスクシステムの増強を行なっている。
また、実験データを検証するためのシミュレーションを走らせるために、
これも比較的低価格で高性能を実現できるPCクラスターを構築し、
バッチキューシステムによる運用をしている。
粒子識別装置の開発
光電子増倍管の開発のための開発費を充て、浜松ホトニクス社との共同研究を行なって
いる。多チャンネル間のクロストークを抑えるために構造を改良した光電子増倍管の
製作や、寿命測定のための光電子増倍管の製作に研究費を使用している。
また、ロシアBINP研究所からより安価な光電子増倍管を購入し試験を行なっている。
研究成果公表の状況
発表論文
"Search for the Lepton Flavor-Violating Decay $\tau^- \rightarrow \mu^- \eta$ at
Belle"
Y.Enari et al. (Belle Collaboration) Phys. Rev. Lett. 93:081803, 2004
"MCP-PMT timing property for single photons"
M.Akatsu et al., Nucl. Instr. and Meth. A 528 (2004) 768-775.
"Cross-talk of a Multi-anode PMT and attainment of a sigma~10ps TOF counter"
M.Akatsu et al., Nucl. Instr. and Meth. A (to be published)
学会
日本物理学会 秋季大会 (2004/09/27〜30, 高知大学)
- レプトン数とバリオン数を破る Lambda pi へ崩壊をするタウレプトンの探索 (宮崎由
之)
- Belle 実験におけるレプトン数及びバリオン数の破れた崩壊モード tau -> p pi^0 の
探索 (佐藤功視)
- Search for LFV decay of tau->ell pi0/eta/eta (江成祐二)
- Photon TOF の開発研究 (冨田光俊)
- イメージング検出器用高時間分解能読み出しICの開発研究 (中野裕章)
日本物理学会 第60回年次大会 東京理科大学野田 2005/3
- TOPカウンター用半導体光電面MCP-PMTの性能評価 (芳野真弥)
国際会議
32nd International Conference on High Energy Physics (2004/08/16〜22, 北京)
"Lepton Flavor Violation Search at B Factories" (大島隆義)
Contribution papers
Search for the decays tau to mu gamma and tau to e gamma (居波賢二,早坂圭司)
Search for Lepton and Baryon number violating tau decays into p-bar gamma, p-
bar pi0 and Lambda pi (佐藤功視,宮崎由之)
Search for LFV $\tau$ decays involving $\pi^0/\eta/\eta'$ mesons (江成祐二)
Meeting of the Division of Particles and Fields of the American Physical Society
"Search for new physics with Rare Tau Decays" (江成祐二)
8th International Workshop on Tau Lepton Physics (2004/09/14〜17, 奈良新公会堂)
"Search for tau -> e gamma and mu gamma" (早坂圭司)
"Search for l pi^0/eta/eta'" (江成祐二)
"Search for Lepton and Baryon Number Violating tau^- Decays into \bar{p} gamma,
\bar{p} pi^0, \bar{Lambda} pi^- and Lambda pi^-" (佐藤功視)
2004 IEEE, Nuclear Science Symposium (2004/10/16〜22, ローマ)
"A TOF Counter of sigma~10ps with Cherenkov Photons and a MCP-PMT" (居波賢二)
6th Workshop on higher Luminosity B Factory (2004/11/16-18, KEK, 筑波)
"TOP R&D status" (居波賢二)
5th International Workshop on Ring Imaging Cherenkov Detectors (2004/11/30 - 12/5, メキシコ)
"Studies of Timing Property of MCP-PMT for Single Photon Detection" (飯嶋徹)
研究推進の問題点と対応策
装置開発には多額の経費が必要であり、それに対して研究予算が少ないことが
問題点ではある。新たなアイデアに基づく光検出器の開発を行なおうとすると、
製作により多くの研究費が必要となる。限られた予算の中では、多くのアイデアに
対して最良と思われる改良策に焦点を当てて開発を行なうことのみが、可能な対応策
である。
今後の研究推進方策
Bファクトリー実験は現在も進行中であり、次々と新しいデータを取得している。
ほぼ完了した解析に使用した量以上のデータがすでに取得済みであり、
現在収集中のものと合わせて、世界最高統計による解析を進める。
装置開発は引き続き、粒子識別装置としての性能を向上させる新しい光電面を
使用した光検出器の開発・試験を進める。
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