RESEARCH
SuperKEKB/Belle II実験
KEKB/Belle 実験によって、B中間子崩壊におけるCP対称性の大きな破れが発見され、破れの大きさが、小林-益川理論で説明できることが確定しました。この大きな成果を残して、同実験は2010年に終了しています。 さらに、2012年にはLHC実験でヒッグス粒子が発見され、素粒子の質量の起源もわかってきて、標準理論がおおよそ確立したかに見えます。 しかしながら、このことは、我々の宇宙が物質だけでできていて反物質が存在しないことの完全な理解を与えるものではありません。 宇宙の物質優勢を説明するには、標準理論に組み込まれた小林-益川理論以外の新しい対称性の破れの源が必要と考えられています。 その解明はチャレンジングで、色々な可能性がありますが、いずれにせよ標準理論を超える新しい物理の発見がその端緒になるはずです。 また、クォーク以外の粒子であるニュートリノや荷電レプトンの反応におけるCP対称性の破れを探求することも重要でしょう。 ニュートリノについては、J-PARCにおけるT2K実験などで精力的に探索され、将来のニュートリノ実験計画でも熱心に議論されています。
こうした状況のなか、我々は、KEKB/Belle実験の能力を格段に向上させた SuperKEKB/Belle II実験を手がけ、標準理論を超える新しい物理の探索を進めています。 この新しい実験では、KEKB加速器のルミノシティ(衝突頻度を表す量)を40倍に増強し、これに合わせてBelle測定器も性能を改善して実験を行います。 新しい物理(新粒子)の探索の手段としては、LHC実験のように未踏の高エネルギー衝突によって未知の新粒子を直接生成して検出する手法が考えられます(直接探索)。 これに対し、SuperKEKB/Belle II実験は、測定精度・感度を究極的に高めて、標準理論の予想からの食い違いや、標準理論では起こりえない反応を見つけ出すことに狙います(関節探索)。 これは容易な実験ではありませんが、探索可能な新粒子の質量領域が加速器のエネルギーで制限されないというメリットがあります。 具体的には、B中間子の非常に稀な崩壊過程でのCP対称性の破れと標準理論との比較、B中間子の弱崩壊でできる3種類の荷電レプトン間での違いの比較(標準理論では同じになるはず)、B中間子と同時に大量生成されるタウレプトンがミューオンや電子に変化する崩壊の探索(標準理論では起こりえない)など、様々な測定を行います。 実際に、これまでの実験結果の中にも標準理論からの乖離を示すものがあり、Belle II実験の結果が待ち望まれています。
SuperKEKB/Belle II実験の建設は2013年頃から始まり、2016年から加速器の調整運転(フェーズ1)を開始、2018年には予備衝突実験(フェーズ2)に成功し、2019年から本格的なデータ取得を開始しました(フェーズ3)。 名古屋大学のグループは、「TOPカウンター」と呼ばれる新型粒子検出器のアイデアを自ら提案し、その設計・建設・運転を主導するとともに、データ解析に向けても、グリッド計算機網による高速データ処理を担うなど、研究拠点としてBelle II実験をリードしています。
実験はまだまだ始まったばかりで、これから加速器と測定器の性能を最高に引き上げ、ワクワクするような結果を出してゆきます。その中核を担うのは大学院生、ポスドクなどの若手研究者です。同実験における発見に立ち会いたい! という若者の参加を歓迎します。
参考:
N研ウェブページの解説