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Physical Review D誌に論文が掲載されました

今年度N研で博士号を取得した児島一輝さんが主解析者としてまとめた論文「Test of lepton flavor universality with a measurement of R(D*) using hadronic B tagging at the Belle II experiment」がPhysical Review D誌に掲載されました。

素粒子標準模型では、レプトンとゲージ粒子の相互作用における結合定数がレプトンの種類によらず共通となるレプトンフレーバー普遍性が仮定されています。ところが、B 中間子のセミレプトニック崩壊では、最も質量の重いタウレプトンへ崩壊する確率が理論予想よりも高いという結果が複数の実験から報告されています。その結果、過去の実験の世界平均結果では、崩壊分岐⽐の⽐が 3.2 σ の有意度で理論値からの超過を⽰していました。このずれが、レプトクォークなどの新しい粒⼦の存在の兆候として注⽬されています。

本研究では、Belle II 実験において、2021年までに新たに取得した189 fb-1のデータを用いたR(D*)の測定を行い、レプトンフレーバー普遍性の破れを探索しました。児島さんは、主解析者として本研究のデータ解析フレームワークの構築を主導し、事象選別条件の最適化と信号抽出手法の開発、データによる背景事象の推定や系統誤差の評価方法を確立しました。多変量解析を使用したB中間子再構成手法の導入や、事象選別条件の最適化による信号再構成効率の改善により、189 fb-1にスケールした比較で、先行のBelle 実験に比べて約40%の統計誤差の改善を実現しました。

測定されたR(D*)の結果は素粒子標準模型の理論予想値と誤差の範囲で矛盾しない値であり、レプトンフレーバー普遍性の有意な破れは観測されませんでした。本測定結果により、R(D*)の測定の世界平均値の理論予想からの乖離は3.2σから3.3σに変化し、依然として実験値の超過を示すこととなりました。

今回の結果は新物理の発見を支持するものではありませんでした。しかしながら、既存の理論とはずれが見えている現象について、Belle II 実験の新しいデータを用いていち早く測定結果を発出できたことは、非常に意義のある研究成果だと自負しています。今後、加速器の性能がますます向上し、飛躍的に増加するデータを用いた超精密測定によって、この謎は解明されるはずです。ぜひ SuperKEKB/Belle II 実験の今後の研究にもご期待ください。(本人コメント)
論文情報:
I. Adachi et al. "Test of lepton flavor universality with a measurement of R(D*) using hadronic B tagging at the Belle II experiment"
[Phys. Rev. D 110, 072020 (Oct. 2024). DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevD.110.072020]

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